整理係の坂本さんが「HathiTrustの挑戦:デジタル化資料の共有における「いま」と「これから」」に参加してきたので、報告してもらいました。
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「HathiTrustの挑戦:デジタル化資料の共有における「いま」と「これから」」
12月18日(火)国立国会図書館 東京本館 新館 講堂
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国立国会図書館主催の標記講演会が「デジタル化資料の共有におけるいまとこれから」をサブタイトルとして開催され、参加しました。
講演会はU部からなり、第T部はHathiTrust事務局長であり米国ミシガン大学図書館副館長であるジョン・ウィルキンス氏によるHathiTrustの取組みについての講演、第2部は、日本における資料デジタル化の動向について、国立情報学研究所、大学図書館、国会図書館の3つの立場から現状についての講演があり、続いて講演者全員によるディスカッションが行われました。
第T部:HathiTrustの取組みについての講演
HathiTrustは、2008年に米国の大学図書館等により開始された共同運営のデジタル化資料のリポジトリで、その使命は、人知の記録の長期的保存およびアクセスであり、信頼できるアーカイブの共有保管のコーディネートである。当初は約200万点のコンテンツでスタートしたが、現在はパートナー館は60機関以上となり、登録資料は1000万点を超えている。パートナー館は協力してそれぞれデジタル化を分担作業で行い、全館がその益を得ることとなる。HathiTrust は、一つの中心的組織があるわけではなく、中央事務局・スタッフはおらず、事務運営は小規模で行っている。その活動は、保存、収集、アクセスのみに限らず資料の統合や著作権調査の支援等に及んでいる。今後は、図書、ジャーナル以外の印刷物以外も対象とする予定。またResearchCenterを作る計画。
第U部:
1)国立情報学研究所(NII)の取組み
NIIの現行の各種サービスの説明。今後の取組みとしてデジタル資料への直接リンクの推進が挙げられる。具体的には、NDLデジタル資料との連携であり、また、HathiTrustのような大学資料の電子化は、これからの課題である。
2)大学図書館の取組み(千葉大学・竹内比呂也教授)
日本の大学図書館における資料デジタル化についての議論は、1990年代に活発化したが、その後、電子ジャーナル整備や研究成果発信としてのIRに関心が移行し、低調になった。この10年間は、資料のデジタル化ではなく、デジタル資料の購読という動きだった。今後は、オープンアクセスもさることながら、各大学が重要と思う所蔵資料のデジタル化推進が考えられる。その際、プラットフォームの共有、メタデータの利用可能、全文検索可能、紙資料の保存の調整等を考える必要がある。
3)国立国会図書館(NDL)の取組み
NDLにおけるデジタル化の状況について、デジタル化予算は、この10年で9倍と
なった。デジタル化された資料は全蔵書の25%、約225万冊となり、その内、Web上で利用できる資料は43万点である。資料のデジタル化は著作権クリアが基本であるが、平成20年の法改正でNDLは著作権が切れていなくてもデジタル化が可能となった。
また、平成25年1月の法改正で絶版資料の公共図書館・大学図書館へ配信が可能となる予定だが、1年位の準備期間が必要であろう。また、民間のものでもDRM(技術的制限手段)のかかっていない図書・雑誌は自動的に収集可能となる。近年、電子情報に関する取組みを強化しており、平成23年には、電子情報部を設置している。
4)ディスカッション及び質疑応答
Q)日本におけるデジタル化の統合規模について、共同的な動きあるか?
・NII、IRでは、いろいろ行っている。
・検索については、NDLサーチがあるが、デジタルそのものの統合ではない。
・著作権処理は、NDL内で独自に行っている。調査したことの共有を検討している。
Q)HathiTrustへの質問・回答
・Googleスキャニングをベースにしているが品質に問題ないか?
⇒十分よいレベルである。長期保存に適している。
・デジタル化手引きについて、パートナー館へのルール、義務あるか?
⇒Webサイト上にガイドラインを掲載している。但し、デジタル化の方法は載せていない。
・一つの大学から始まったのが大きく広がったのは?
⇒Googleデジタル化のコストが高すぎて独自には出来なかった。集団が参加することがメリットあるということ、他のシステムよりコストを削減できることを示した。
・日本において参考になることは?
⇒Cloud利用のように、独自の館でもできるようになってきて大学図書館迷っている。
コストを抑え、良質の情報を与えることを踏まえて、図書館の本来あるべき姿を考え
たことがHathiTrust成功の因ではないかと思う。
⇒日本の大学はconsoridationがかけているのではないか?IRはIRで終わってしまっていてデジタル化の中で大学図書館が何をしたらよいか、という議論をもっと深めるべきである(竹内)
・Global Resourceについて
⇒経済的問題と理想をまとめるのは困難。集団的デジタル化戦略を構築していくことは可能と思う。
・Google Bookについて
⇒HathiTrustにあってGoogleにないものもあり、逆もある。
・メタデータの創出は?
⇒提供館に依存している。また、紙とデータの対応は、OCLCのNo.による。プロセスはシステム化されている。
・デジタル化された資料の公開はどの程度効果があるか?
⇒分野により異なる。その分野の歴史が長いほど役立っている。(人文、数学など)
⇒IR、OAが文献入手の変化につながっている。
以上、日本においては、大学図書館等の資料のデジタル化について、IRとの共有も踏まえて、統合的なシステムを構築していく時期にあると考えます。既にデジタル化に着手しているNDLも取り込んだ日本全体のものが望ましいと思います。それにはNIIの役割が大きく期待され、その意味で今回の講演会のHathiTrustは、参考例として理解を深めるのに大変役立ちました。情報の世界が変わっていく今日にあっても、大学図書館として本来何をなすべきか、ということを基本に考えたことがHathiTrustの成功の要因だったとの事務局長の言が印象的でした。因みにHathiTrustの名称は、Hathiとはヒンズー語で象という意味で、象の大きく強いイメージと、安全で信頼できる、という意味が込められているそうです。
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/20121218lecture.html
坂本さん、お疲れ様でした。